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東京高等裁判所 昭和43年(ツ)89号 判決 1969年8月20日

上告人 竹沢信明

右訴訟代理人弁護士 小野瀬源次

被上告人 竹沢千代吉

主文

原判決を破棄する。

本件を宇都宮地方裁判所に差しもどす。

理由

上告理由第一、二点は、本件立木の所有者を確定するには、その前提として本件立木の植栽された土地の所有者を確定すべきであるのに、原判決は、これをしなかったから、審理不尽であるというのであり、結局、原判決が、立木は附合の対象とならないと解したのは、民法第二四二条本文の解釈を誤ったものであり、その誤りは判決の結論に影響を及ぼすものであると主張していると解されるから、この点について判断する。

原判決は、立木は今日それ自体取引上独立の価値あるものとして取扱われているから、附合によりこれが植栽されている土地の所有者の所有に帰することはないとして、上告人が本件立木の植栽されていた土地の所有者が被上告人の被相続人竹沢千代松であることを争い、本件立木が同人によって植栽されたとしても、その植栽された土地の所有者は竹沢茂であるから、本件立木は同人の所有に帰した旨主張しているのに、竹沢千代松が右土地を所有またはこれに本件立木を植栽する権原を有していたことを認定しないで、本件立木はこれを植栽した同人の所有に属していたと判断している。

しかしながら、附合が所有権取得の原因として認められる根拠は、物権関係を画一にし、その複雑化を避けるためというよりも、むしろ、所有者の異なる二個以上の物が結合して社会観念上分離することが不可能となったとき、これを原状に復することは物理的には不可能でないとしても、社会経済上から見てはなはだしく不利であるため、復旧を許さないでそれを一個の物として何人かの所有に帰属させようとするにあるから、立木が独立して取引の対象となるからといって、建物のように独立の不動産でない以上、附合の対象とならないと解することはできない。このことは、立木について附合を認めないとすると、用材となる樹木の苗木を占有権原のない土地に植栽した者は、該苗木がようやく用材となる一歩手前まで成長した時期でも、土地の所有者からその収去を求められれば、これに応じなければならず、従って、この場合社会経済的な損害が生ずることが避けられないことから考えても明白である。

そうしてみれば、原判決は民法第二四二条本文の解釈を誤ったものというべく、その誤りが原判決の結論に影響することは明らかであるから、論旨はこの点において理由があり、原判決は破棄を免れ得ないが、本件は、竹沢千代松が本件立木が植栽されていた土地について本件立木を植栽する権原を有していたか否かについてさらに審理を尽させるため、原審に差しもどすのが相当である。

よって、民事訴訟法第四〇七条第一項に従い、主文のように判決する。

(裁判長裁判官 近藤完爾 裁判官 田嶋重徳 稲田輝明)

<以下省略>

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